12.05.2014

戸隠山へ、またきたよ -2014.9.20 鏡池~(P1尾根)~西岳~本院岳~八方睨~山頂 ~蟻の戸渡り~戸隠神社奥社~鏡池





⋅⋅⋅⋅⋅⋅素晴らしすぎた、
南アルプス南部の旅から二週間⋅⋅⋅⋅⋅⋅



二週間あいたのは、
週末のお天気がイマイチだったから。
でも南アへの思い入れが強すぎて
どこかへ行ったとしても、
腑抜けだったかも。
この週は元々北アの山へ登る予定でした。
テント一泊のつもりで
Hiさんも二日間の
お休みを取っていましたが
前の週に「登頂待ち行列、数時間」
という混雑ぶりをネットで見て
「そりゃあ無理」
行き先を変えることにしました。



ではどこにしようか。
一日目は、
来年行こうと話していた
戸隠の破線ルートを。
翌日は戸隠から比較的近い
妙高山はどうだろう。



戸隠は6月末の
緑が美しい頃に訪れてから
すっかりお気に入りです。
前回は奥社〜八方睨、
高妻山まで縦走でした。
※そのときの記事は
次は破線ルートから登頂しようと
決めていた戸隠山です。
6月のブログ記事では
「また必ず呼ばれる」と
結んでいますが、
早々呼ばれましたね。




*******




鏡池の駐車場から
夜明けと同時に出発
この道は熊の出没が多いと聞く
二人で熊鈴を鳴らしながら歩く
「また戸隠に来られて嬉しいな」
山もだけれど、
麓の雰囲気を含めて好きなエリア
そこに来られたというだけで
気持ちが上がる
なんたって、
戸隠そばは超美味しいし⋅⋅⋅⋅⋅⋅



川の渡渉は日中なら
迷うことはない
緩やかな採草地を過ぎると
次第に傾斜がキツくなる








天気は悪くはないけど、
ガスだなあ
でもなんだか
パワースポットらしくて
良い感じ



「熊の遊び場」という
有名な看板の前後から
P1尾根っぽさが出てくる
時折、展望を得ると
隣のダイレクト尾根がカッコいい
辿れるようになるまで何年かかるか
一生登れないかもしれないけど、
憧れるだけならタダだもんね








鎖で横移動、壊れそうな梯子へ
ここが一番いやらしい感じだった
戸隠は岩や土が脆い
濡れていて滑ることがある



P1尾根にある蟻の戸渡りは
横を巻くので
危険度は比較的低い



このルートは
思ったほど鎖の数は多くない
その分、急登を脚で稼ぐ箇所がある
周回は体力勝負にもなる





不帰の剣というらしい
よっこいしょ、と登る





目指す先



西岳から八方睨までの道は
濡れた笹で滑るったらもう
崖側に落ちないように
そろそろと⋅⋅⋅⋅⋅⋅



奥社ルートと合流したら
ひとまずホッとした
戸隠山頂を踏んで八方睨へ戻り
腹ごしらえ
あとは下山なのだけど、
わたしは何と言っても
ここの戸渡りが一番の恐怖!





うえ〜〜ん!怖いヨ〜〜〜!



下りに使うと恐ろしさ倍増だった
写真右に男性登山者がいる
これが巻き道だが
そこへ下りるまでが怖い
やはり上を四つん這いで通過



しっかり立てる場所まで来ると
へなへな〜〜〜⋅⋅⋅⋅⋅⋅
ああ〜怖かった⋅⋅⋅⋅⋅⋅
しかしこれを渡らないことには
「戸隠へ来た感」が



前回は覗けなかった、
岩の上にある祠が祀られた小屋
時間があったので登ってきた





屋根が見える





手も足も豊富





「良い眺めだな〜」
photo by Yumiko




下山時から晴れて
遮るものなく
戸隠の街や向かいの飯縄山が
よく見える、お得な展望地



奥社は観光客でいっぱい
随神門を右に折れ
天命稲荷の前を通り
スタート地点へ戻ってきた
水鏡に映る、
わたし達が歩いた稜線








下山後のおたのしみは
戸隠神社中社の傍にある
「うずら家」さん
1〜2時間待つのがデフォらしいけど
すんなり入れて
わたし達が最後の客だった
ここのお蕎麦は
本当に美味しいんだよな〜
山と、美味しいものは
ひとを幸せにする!



お腹を満たしたあと、
妙高山麓笹ヶ峰キャンプ場へ移動
明日も山登り
うん
幸せ



12.03.2014

南へ 4 -2014.8.28~31 さようなら、わたしの夏 最終日⋅⋅⋅上河内岳〜茶臼岳〜畑薙大吊橋




8月31日
南岳から







最終日に相応しい幕開けじゃないか
瞬きが惜しい
まったく、空と雲の表現力に
わたし達は容易く操られてしまう



上河内岳へ登り詰め
やっと目にした
立派な山々が肩を並べるさまを
「歩いてきたね〜⋅⋅⋅⋅⋅⋅」







来た道を戻り
また歩き通したい気分
とても去り難い





影上河内岳
photo by Yumiko




そして他方を見れば
未踏の山へ憧れを抱く
頂から頂へ
こうして登山者は呼ばれるんだろう
追っても
追っても
知り尽くせない
自然の誘惑には、
どうしたって敵いっこない








さて、この旅
最後のピークへお邪魔しよう





茶臼岳から
photo by Yumiko




⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅
⋅⋅⋅⋅⋅⋅
⋅⋅⋅




*******




8月の終わり
山の上で過ごした数日
秋の気配を感じながら
わたしの夏も終わりました。


楽しみにしていた計画
目標の大きな山々を越えるため、
体力だけはつけておこうと
冬の日帰りでは、
苦手な重い荷物を我慢して背負い
夏、ザックが軽いときは
その分長い距離を。
大袈裟かもしれませんが
思いつきで歩き通せる場所ではない。
未熟なわたしは、
一つひとつ山行を重ね
どうしても確かめたかった道を
辿ることができました。
何と言っても
希望を叶えてくれた、
周りの人々や環境に感謝です。
そしてわたしを迎え入れてくれた
(⋅⋅⋅⋅⋅⋅と言って良いのかな?)
愛する南アルプスの山々に。


山に関しては、
目標が他にもたくさんあります。
そのスタートラインにすら、
立てていない状態だけれど⋅⋅⋅⋅⋅⋅
「自分達がやりたいこと」を
見失わず、楽しみながら
結果それが素晴らしい感動を
もたらすのだと、
この旅は教えてくれました。


天気は残念な日ばかり
それでも想像を超える、
素晴らしい景色に出会えました。


南部の小屋の方々が、
みな人懐こく、優しかったことも
印象に残っています。


畑薙の吊橋を渡ったときは
さみしくて泣きたくなった。
次はいつここへ戻ってこられるのかと


東京に戻り暫くは
夢のような数日間を思い返し
気持ちここにあらずでした。


今だって、地図を広げると
いてもたってもいられなくなります。
この記事を書いているのは
12月初旬、深夜
焦がれる山たちは
今どんな表情で眠っているのだろう。
幸せな想像を巡らせながら
わたしは満たされている。
明日も明後日も、
こうして過ごしていたいと願いつつ
そろそろ眠りにつきましょうか。



そうそう
Kさんから戴いたお手紙。
御守りになったこのときから、
既にたくさんの山を共にしています。
ありがとう









(おわり)






南へ 3 -2014.8.28~31 大きな山を縫って 二日目⋅⋅⋅千枚岳〜悪沢岳〜赤石岳〜百聞洞山の家 三日目⋅⋅⋅聖岳〜聖平小屋




悪沢、赤石
おおらかな稜線を繋ぐ
何度立ち止まり
先を仰ぎ、振り返ったことか
心はグライダーのように
のびる尾根と深い谷を沿う


「これが山なんだ」








そこに刻まれた完璧な造形
美しいとしか言い様がなかった
目の前に理想が広がっていることが
不思議で仕方がなかった


「これが山なんだ」


他に何かを求め、与えられても
いつも孤独から抜け出せない
不安や不信の塊
そんな寂しい偏屈な人間すら
山で解き放たれる
わたしが山へ登る理由の
ひとつかもしれない



赤石岳避難小屋で一息入れた
残念ながら、
ここから青空が消えた
百間平は真っ白
降り出す前に今夜の幕営地へ



二日目はよく歩いたので
雨音に負けないくらい、
大きないびきをかいていたかも



明け方
テントから顔を出すと
暗いなかを、
ちらほらと明かりがやってくる
小屋を発ったパーティだ
「おはようございます、
早いですね」
声を掛けると
「いや〜我々は足が遅いから。
そのぶん、早く出ないとね」
数名の男女は、
すでに雨具を濡らしていた
しかし気にする様子もなく
賑やかな話し声をあげながら、
テン場の横の斜面を上がっていく
「楽しそうだな〜
ウチらも負けてられないね」
雨の中、濡れたテントを撤収し
雨の中、今日も歩くのか思うと
多少はテンションも下がる
明るいパーティに元気をもらって、
エイヤと出発の支度に取り掛かる



夜明けとともに雨脚は弱まった
結局この日は
降ったり止んだりだったと思う



天気が悪くても、良いこともある





「雷鳥さんだよ!」



兎岳から前聖岳まで
4度も雷鳥に遭遇
三家族とオス一羽
母さんと一緒の子どもたちは
だいぶ大きくなっていた
オスの雷鳥がひとり佇み
見つめていた先は
晴れていたら、
素晴らしい眺めが広がっていただろう



前聖岳にザックをデポし
奥聖岳へ向かう








ここがまた素晴らしく、
よく出来た庭園のようだった
ちょっとした岩稜も楽しい
眺望はなくとも心から感動した場所








奥聖で強くなった雨も
聖平小屋では止んでいた
テントや荷物を広げたあと
小屋でカレーを注文した
「ご飯大盛りに出来るよ、
どうする?」
そう訊かれ
「じゃあ、大盛りにします。
でも食べられるかなあ」
心配ご無用
下膳したお皿を見た小屋の男性が
「あら!ぜ〜んぶ食べちゃったね!」
厨房から一斉に笑い声
「だって、
美味しかったんだもん⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
500円でお腹いっぱい
まかないの甘酒までご馳走になり
更には聖平小屋名物、
ウェルカムサービスの
フルーツポンチもしっかりいただく
テントに戻ると
持参のレトルトカレーまで
食べてしまった
夏に山を歩くと食欲が出ず、
「無理してでも食え」と
いつも言われていたけれど、
この山旅は至って快食
おかげでバテることなく歩き切れた



優しい聖平小屋
ここまで来られて良かった
明日は最後のひと歩き
もう、終わりなんだな




(つづく)

11.01.2014

南へ 2 -2014.8.28~31 二日目⋅⋅⋅⋅⋅⋅千枚、荒川、赤石を行く




雨は止んでいたが
暗く濡れた道を歩くのは、
なんとなく心細い
足下を確かめながらそろそろと進む
前にいたHiさんは
時々立ち止まり、振り返り
そそっかしいわたしが
滑って転びそうな箇所を、
より明るいヘッデンで照らしてくれた



夜と朝は、登る間に入れ替わっており
千枚岳では富士山を見た
厚い雲に押されながらも
立派に裾野を広げている
行こう、今日はここから稜線の旅









若干の風
あられがパラパラ落ちてくる
「寒いな〜⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
然りとて、先を見てみなよ
「大きい」
大きいよ、とても
「美しい」
そう、誘うような
晒された肌にゾクゾクする



悪沢岳からは甲斐駒ケ岳が見えた
すぐにわかるあの頂、愛する山
その次に注目するのは
わたしの家にいる愛ハムスター
「しおみ」
と、同じ名前の塩見岳
もちろんお気に入りの山だ
空は変わらず重くても
周囲の山々はなんとか見渡せた
中岳へ進んで前岳へ立ち寄り
「Kさん、いないなあ」
どこで会えるだろうか
お花畑を抜けて荒川小屋へ向かう








ホシガラスが飛び交っている
わたしが鳴きまねをして、
クスクス笑いながら小屋に着いた



小屋の食堂で
名物「荒川カレー」を注文する
わくわくしながら待っていると、
若い男性が我々に話しかけてきた

「ひりゅうさんですか?」
「???
はい」

なぜ名前を知っているのだろう?
もしかしてKさんかな?
でも、歳上の方のはず
様々な疑問がよぎる
Kさんとは実際にお会いしたことがなく
互いに特徴を教えあっていただけ

「これ、Kさんから預かりました」

小さなメモ
わたしとHiさんへ宛てた手紙
今朝、赤石岳から下山したことを告げている
「良い旅を!」
直筆の文字
そこに残る、微かなぬくもり
Kさんの姿を思った
ああ、会えなかったな
だからこそ胸がいっぱいになった



メッセンジャーは、
千枚小屋で働くお兄さんだった
休暇を利用して街へ下り
縦走しながら小屋へ戻る途中だった
ゆうべKさんと酒盛りをしたこと、
Kさんは天候に恵まれなかったけど
今朝は赤石岳からの眺めを楽しみ
満足して下りていったこと
わたし達の特徴を聞いて手紙を託され
でも、その格好と少し違うので
戸惑いながら声をかけてくれたこと
美味しいカレーをいただきながら
話に花が咲いた



千枚小屋のお兄さんに御礼を言い
なぜか固く握手までして、
荒川小屋を出発
心はフル
大切な手紙は、旅のおまもり



ほら、次の山も大きいよ







(つづく)

10.25.2014

南へ 1 -2014.8.28~31 ①椹島~千枚小屋 ②荒川岳~赤石岳~百間洞山の家 ③聖岳~聖 平小屋 ④上河内岳~茶臼岳~畑薙大吊橋




何よりも心待ちにしていた計画です。
南アルプスの南部を訪れること
それは必ず素晴らしい旅になる



勘というか
興味があるモノ・コトへの嗅覚は
実は何よりも頼りになる。
結果やはり素晴らしい旅でした。
自分の中で「山」とはこういうものだと漠然と抱いていたもの、それまで不確かなものではあったけれど、理想や憧れが現実となりはっきりと目の前で展開されていく。
あの不思議で夢のような感覚は、そう味わえるものではありません。



心と身体が山に添う体験
着く足から、
肌に触れ、また吸い込む空気から
そこへ見るものが加わり
「わたしは今 山にいるのだ」と。
噛みしめるたびに、
喜びが胸の奥から波紋のように
突き抜けたくなる衝動をともなって。



二日目に、
赤石岳へ向かっているときだろうか
三日目に、
奥聖まで歩いたときかもしれない。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅見たかった山を見た。
なにもかもが素晴らしい、
本当に本当に、来られて良かった。
ありがとうHiさん」
まだ行程を終えていないのに、我慢ができなかった。溢れて仕方がない。
感じたことを口に出してしまわないと、すべてを持ち帰ることなど到底できないと思った。
本来最後に伝えるべき友への感謝を吐き出して空いた心のスペースは、
それでもあっという間に感激で満たされていくのでした。




*******




予報は雨、現地へ着いても雨
椹島で雨具とザックカバーを着ける
わたし達が山へ入る数日前から、
南アルプスは雨続きだった
先に入山し、
我々とは逆周りでやってくる友人Kさんのことを話しながら歩く
「千枚小屋で会えるかもって言っていたけど、どうしているかなあ」



霞みの森
特別に美しく見えるのは、
欲目のせいではないはずだ
汗と雨で身体が濡れる
Hiさんはウンザリしているのか
いちいちはしゃぐ片割れに、
そのうち反応しなくなった
わたしは同意を求めるつもりはなく
ひとり、九官鳥のように
「きれい、すてき」を繰り返す









清水平には男性数名のパーティと、
単独男性
隣にいた単独の方とお話をする
関西在住で、
毎年この辺りを訪れているとのこと
「僕は静かな場所が好きだから⋅⋅⋅⋅⋅⋅
そういう理由で槍ヶ岳をずっと避けてきたけど、なるべく人がいなさそうな時を選んで、とうとう今年は登ることにした。
晴れの山頂を独り占めできて、すごく良かったよ。良い山だった、ハハハ」
(南アルプスが好きという方は
このタイプが多い気がします。笑)



男性は、
今日はなんだかしんどいと言っていた
長距離運転してきて殆ど寝ておらず
また二ヶ月ぶりの登山だから、
ゆっくり登ると言った



見晴台へ上がってみても
ただ白い空間が広がっている
でも、これから過ごす数日のことを思うと、ガッカリはしなかった
登山道から見下ろす小さな駒鳥池は
動植物の楽園に違いない
勝手な物語を想像しては楽しんだ



お花畑のなかの千枚小屋
受付を済ませて
素泊まり用の離れへ向かう
すでに青年がひとり、
百名山の本を広げ寛いでいた
荷物を置き着替えを済ませ、
建物を出て本館へ戻ってみる
Kさんらしき人物は見当たらず
悪天候で進めなかったのかも、
明日どこかですれ違えるかな



小屋に着いてなんだかんだと
一時間以上経っていたと思う
今日の寝床へ戻り
くだらない話をしていると
清水平でお会いした男性が、
倒れこむように入ってきた
大の字になり動かないが
荒い呼吸が辛そうだ
寒い寒いと言うので、
向こうの小屋はストーブがあるから、着替えて暖まってくると良いですよ、と勧めてみる
彼は少しすると突然立ち上がり
小屋の外で嘔吐を始めた
びっくりして後を追い、背中をさする
何も食べられなかったのだろう
戻るものは水か胃液のように見える
すんませんすんません、繰り返す男性
念のため、具合の悪い人がいることを
小屋番さんに伝えに行った



山を歩いていて、
本調子でない時は誰にでもあると思う
大丈夫なときもあるし、
大丈夫でなくなることもある
清水平では、にこやかに話したのにな



男性は本館で暖まって、
少し落ち着いたようだった
(彼は明日はどうするんだろう)
他人様の心配半分と
(Kさんに会えるかなあ。
荒川小屋のカレー食べないと。
天気は回復してくれるかな)
自分の楽しみ半分
冷え込んだ夜の小屋
寝袋でみのむし
ぐるぐるいろいろなことを考える



そして明け方
暗いうちにそっと小屋を出た









(つづく)

10.03.2014

まだまだ、甲斐駒ケ岳 -2014.8.3 日向八丁尾根~黒戸尾根周回




わたしは、しつこい
そのしつこさは異常
とにかくしつこい



Hiさんは困っていた
昨秋、彼は単独で黒戸尾根から
甲斐駒ケ岳へ登り
日向八丁尾根を歩いた
それを「ずるい」と言われ続け
「今年はわたしも行くんだから」
と言って、聞かない駄々っ子
「いいけどキツいぞ」
「逆回りにすれば良いよ。
黒戸のくだりは、
ほとんど登り返し無いし」



最悪、樹林帯で暗くなっても
よく知っている道のほうが良い
なにも日帰りしなくても
しかし休日が限られている我々は
泊りの山行計画は、
どうしても日数を要する時に使う



知っている
無理でないと見越せば
彼は駄目だとは言わない
そのかわり
いかなる時も絶対大丈夫は無い
「しんどくなったら、
早めに言ってくれよ」
エスケープ出来ない、水場がない
長丁場の日向八丁尾根は
それなりの覚悟が必要だ
もっとも
トレランの方々などは、
颯爽と駆け抜けていくみたいだけれど⋅⋅⋅⋅⋅⋅



尾白川渓谷を挟み
黒戸尾根の向こう側
いくつかの山を越え
鋸岳から甲斐駒ケ岳へ続く稜線に至る
今年の夏の目標のひとつ
わくわくが止まらない




*******




暗いうちに尾白川渓谷駐車場を出る
わたしは、この日向山への登りが
一番キツかった
全身をねちっこく舐める空気
噴き出す汗も手伝って、
暗い森に蒸されていく
このままでは進めない
仕方なくストックを取り出し
やっとの思いで日向山へ








ここで日の出を迎えた
日向山は1600mくらいだが
山頂のようすや、
そこからの眺めは一級品
「元気でた!」








白砂を一気に滑って
あの緑へ飛び込んで



森のなかは
想像以上に美しく静か
見上げた熊棚すら愉快だ
いつしか大岩山に差し掛かり
鎖やロープで急登を下る
この尾根全般に言えることだが
時間をかけて整備してくださった、
七丈小屋のご主人に感謝
なにもなかったら
自分達でロープを取り出さないと
とうてい下れない
刈りこみがなければ
とんでもないハイマツ漕ぎになる
とは言え
登山者で賑わうような
一般道とはやはり違う
危険な登降や
道迷いの可能性もありますので
初めて歩かれる方は十分ご注意を








目の前の甲斐駒ケ岳は
不穏な表情
鋸尾根に合流すると
パラパラ雨
どこを見ても真っ白
足もとの可憐な花たちが
色のない登山道で励みになる
岩を乗り越えながら山頂へ



「なにも見えないね。笑」
そういうこともありましょう
わたしは納得していた
美しい尾根を歩いてきたんだもの
自分の足で見たかった森を



祠に手を合わせる
並んでぶら下がるわらじが
いつ見てもかわいらしい
わたしはなぜ
あなたに執着してしまうのか
わからないけど、また来ます





「ひとやすみ」
photo by Yumiko




黒戸尾根の長いくだりを終え
尾白川にかかる橋を渡る 
身体が訴える疲労は
山を歩いてきた実感
好きな山へ登るための
好きな道がまた増えたんだ
嬉しくてたまらない
でもわたしよりも
無事に山行を終えたことで、
心から「良かった」と思ったのは
ずるいずるいと言われ続けた
Hiさんのほうだろう



思い出を積みこんで車を走らす
夕暮れを迎える夏の白州町
青く豊かな穂波が広がる
満ちた気持ちで麓の町を眺めるとき
これもまた山を登った実感



9.17.2014

みちは続く 白馬〜五竜 3 -2014.7.27~29 最後の夜と始まりの朝




陽が落ちるまで、
小屋のまわりを散策しよう


隣のツェルトは
白馬頂上宿舎からやってきて
休憩をとるたび一緒になった、
物静かな男性のものだった
細身でメガネをかけ
赤いチェックのシャツを着て
50代前半に見える


「おつかれさまでした」
声をかける
そこから会話が弾む
男性は既に定年を迎えていること
若い頃から仲間と山を歩いてきたが
最近は自分の時間を持てるようになり
いま再び、素晴らしかった場所や
好きな場所をひとりで訪れていること
チューハイを片手に
少し酔っているのか
それまで見せなかった柔和な表情だ


「一番好きな山はどこですか?」
ベテランさんと話しこんだとき
わたしが必ず訊ねること


「うーん⋅⋅⋅⋅⋅⋅
やっぱり、後立が好きだね」


男性は明日も先へ進むと言う
わたし達は下山を選んだことを告げる
「またきっと
どこかで会うでしょう」
知らない人と知り合って
そんな風に言ってもらえるときが、
一番嬉しい
いつかまた会えるかな
今どこを歩いているんだろう
山へ通うたび
想う人が増えてしまって、困る


五竜山荘のテーブルの前で、
別の登山者達と交流
長野県内から来た夫婦には
朝、もいだばかりのきゅうりと
自家製味噌と
クジラのベーコンを
美味しいお酒もいただいた
見知らぬ者たちが輪になり
山の話は尽きなかった


薄桃の空と
導くような雲の波が
人々の心を虜にするまで








*******



目覚め
テントの外を覗く
暗い
隣のツェルトは既に無い
五竜岳の頭へ延びる登山道
遠い斜面に揺らめく小さなあかり
「お気をつけて。
またお会いしましょう」
心のなかで語りかけると
とても寂しくなった
もう一度ご挨拶をしておきたかった



明けるころ
我々もピークへ向かう







足を止めては、光を喜んだ
今日も天気は良さそうだ



五竜岳の山頂では
愉快なおじさんと仲良くなった
細かなエピソードを書き出したらキリがない
とにかく豪傑
この方とは現在文通をしている
そして、これからこの方とは
絶対にどこかでお会いする
根拠はないがそう思う
あの物静かな男性に抱いた切なさとは真逆の
何か、強い力で引き寄せられるような安堵感というか
山男もまた、いろいろである



荷物をまとめて遠見尾根をくだる
五竜の頂からも見たけれど、
踏めなかった鹿島槍ヶ岳に
ほんの少し恨めしい視線を送る
実は昨年、Hiさんは別の友人と
唐松から鹿島槍を目指す予定だったが
悪天候に阻まれ成らなかった
だから今年はわたしが
なんとしてでも踏ませてやる
そう強く思っていたのだけれど
初日の天気、それから
山行中ずっと不調な様子のHiさん
仕方あるまい


「また来たらいいよ」
想いと裏腹に軽く言うわたし
「ゆみこは頼もしいな」
思いがけない返答で躊躇う
しかしちょっとだけ、
誇らしい気持ちになった
そういつも
頼ってしまうのはわたしのほうだ
誰といたって
山の中では自己解決しないといけない
解っていても、
どこかで友に頼ってしまう
共に歩くとはどういうことなのか
深く考えてもわからないし
だいたい
山を登る理由すら曖昧で



でも望む気持ちが消えぬ限りは
進んでみようと思う
仲間も同じ気持ちだろう
分岐まで辿り着いたら
自分たちの地図を広げて、
どこへ向かうか考えればいい



確かなこと
目の前にある道は
まだ先へ続くということ





9.11.2014

みちは続く 白馬〜五竜 2 -2014.7.27~29 二日目:五竜岳へ




風は止まず
カタカタ小刻みに鳴る小屋の窓
時折強くビョーッと唸る
闇すら、さらわれてしまいそう
ぬくい床の中だが少し心細い
明日の晴れ予報が味方
心配なのは
珍しく頭が痛いと訴えたHiさん
彼はよく眠れているのだろうか



⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅



夕べ「小屋は楽で良いなあ」と
話していた同室の男性ふたり
彼らもテントを広げずに、
ここで眠ることを選んだようで
カーテンの向こう側
まだ静かな寝息
荷物をまとめ、そっと部屋を出る



「お世話になりました」
つぶやいて宿舎の外へ
雨はない
風もすっかりおとなしく
闇に浮かぶ低い雲
昨年、仲間と歩いた稜線を辿る
同じ道にまた脚をそわせて
今日はもう少し先へ
大して成長はしていないが
たった一年でも
たくさんの眺めや思いを共にしてきた
気心の知れた友はもう
わたし以上にわたしを知っているかもしれない
まだ始まったばかりなのに、
そんなことを考えながら


そうして朝







待ってた







おはよう








おひさまは嬉しい
嬉しいからどんどん歩き、登る








楽しみにしていた不帰嶮







なかなかカッコいい岩具合
一峰、二峰と夢中になって、
気づいたら唐松岳
ここまで幾度となく会話を交わした、
登山者3名のうち
黄色いヘルメットの男性
小柄で足の速い女性とは
山頂で笑顔のお別れ
もう一人、物静かな男性は
我々と同じく五竜山荘まで




引き続き慎重に進む







いつものように
たまに前後を交代しながら進み
たまに思ったことを話して
多くは山に集中する
目的があると、
時間はあっという間に過ぎるもの



五竜山荘で荷をおろし
テントで横になると、
つい眠りこけそうになる
山のうたた寝は、とっておきだな
でも目を瞑ると美しいものは見えないし
ここではゆっくり感じる時間だって、
実際はいつもと同じように過ぎていくのだから
ちょっともったいないなって
そんな些細な心の葛藤ですら
贅沢なことだ









(続く)

8.21.2014

みちは続く 白馬〜五竜 1 -2014.7.27~29 初日: 猿倉~白馬岳頂上宿舎




テントを抜け出して、山頂へ
今日が終わる
我々のほかに誰もいない
雲の上のそういう場所は
地球からみんな、
いなくなってしまったみたいで








サヨナラは
一瞬、強い光を放って
手が届かぬまま落ちていった
姿が見えなくなっても
空と雲のいろ、
すべての影を次々変えながら
いつしか仄暗く
暮れるすばらしさは儚さにある
もう二度と会えない



昨年9月末
白馬三山を巡ったときのこと。
今年は続きを歩きましょう、
そんな計画から始まった今回の山行




ひと昔まえ
白馬山荘で働いていたHiさん
この界隈には
特別な想いがあるようで。
過去を語らない彼ですが
たまに思い出して、
当時の話を聞かせてくれます。
自分史の分岐点は
誰にでもあるもの。
どのようなカタチであれ
そのきっかけが山であるのは、
山が好きで山へ通っている人
みなさんそうなんじゃないかなって
勝手に想像するのですが⋅⋅⋅⋅⋅⋅




*******




約一年ぶりの白馬
一日目は雨予報
二日目から持ち直す
猿倉まで乗ったタクシーで
運転手さんと天気の話をする。
「とにかく早く小屋へ着くことだよ。
いつだったか、
夫婦が稜線で雷にうたれて
旦那さん亡くなったんだけど、
夕方4時ごろだったよ。
なんでこんな天気で、
こんな時間に行動するんだって、
救助の人が言ってたよ」
そうだなあ⋅⋅⋅⋅⋅⋅
天狗山荘までは無理だろう
上は風も強い予報



猿倉荘で届を出して出発
白馬尻に着く前に降り出した
合羽を着込み、
続いて休憩した小屋の軒下で
ゲイターとミトンを着ける
結局、このミトンのおかげで
手を冷やすことはなかった








真っ白な大雪渓
落石が怖い
とにかく速やかに通過しよう
シュー!と音がしたが、
見えないのだ
どこで岩が滑り落ちているのか



激しく身体を打つ雨
しかしこのときのわたしは
全く心が折れなかった
わかっていたことだ
高山の大雨で全身を濡らし、
手がかじかみ
自分で合羽を着られないほど
弱ったことがある
本当に浅はかだったと思う
友にも心配をかけた
今日は頂上宿舎までは乗り切れる
10時、休まず歩いて宿舎に着いた



「山へ来たのに川みたいだ」
どこかのパーティのボヤき
下山の頃合いをはかる人
これから白馬山荘を目指す人
ごった返す休憩所
うどんをすすりながら考える
明日、岩が渇いていると良いな⋅⋅⋅⋅⋅⋅
宿泊手続きをして
「針ノ木」という部屋で
過ごすことになった
午後、雨は弱くなったが
風は依然として強く
ヒューヒューガタガタ



薄っぺらいが、
寝心地は悪くない布団である
ちょいと転がったら、眠っていた




(続く)