10.25.2014

南へ 1 -2014.8.28~31 ①椹島~千枚小屋 ②荒川岳~赤石岳~百間洞山の家 ③聖岳~聖 平小屋 ④上河内岳~茶臼岳~畑薙大吊橋




何よりも心待ちにしていた計画です。
南アルプスの南部を訪れること
それは必ず素晴らしい旅になる



勘というか
興味があるモノ・コトへの嗅覚は
実は何よりも頼りになる。
結果やはり素晴らしい旅でした。
自分の中で「山」とはこういうものだと漠然と抱いていたもの、それまで不確かなものではあったけれど、理想や憧れが現実となりはっきりと目の前で展開されていく。
あの不思議で夢のような感覚は、そう味わえるものではありません。



心と身体が山に添う体験
着く足から、
肌に触れ、また吸い込む空気から
そこへ見るものが加わり
「わたしは今 山にいるのだ」と。
噛みしめるたびに、
喜びが胸の奥から波紋のように
突き抜けたくなる衝動をともなって。



二日目に、
赤石岳へ向かっているときだろうか
三日目に、
奥聖まで歩いたときかもしれない。
「⋅⋅⋅⋅⋅⋅見たかった山を見た。
なにもかもが素晴らしい、
本当に本当に、来られて良かった。
ありがとうHiさん」
まだ行程を終えていないのに、我慢ができなかった。溢れて仕方がない。
感じたことを口に出してしまわないと、すべてを持ち帰ることなど到底できないと思った。
本来最後に伝えるべき友への感謝を吐き出して空いた心のスペースは、
それでもあっという間に感激で満たされていくのでした。




*******




予報は雨、現地へ着いても雨
椹島で雨具とザックカバーを着ける
わたし達が山へ入る数日前から、
南アルプスは雨続きだった
先に入山し、
我々とは逆周りでやってくる友人Kさんのことを話しながら歩く
「千枚小屋で会えるかもって言っていたけど、どうしているかなあ」



霞みの森
特別に美しく見えるのは、
欲目のせいではないはずだ
汗と雨で身体が濡れる
Hiさんはウンザリしているのか
いちいちはしゃぐ片割れに、
そのうち反応しなくなった
わたしは同意を求めるつもりはなく
ひとり、九官鳥のように
「きれい、すてき」を繰り返す









清水平には男性数名のパーティと、
単独男性
隣にいた単独の方とお話をする
関西在住で、
毎年この辺りを訪れているとのこと
「僕は静かな場所が好きだから⋅⋅⋅⋅⋅⋅
そういう理由で槍ヶ岳をずっと避けてきたけど、なるべく人がいなさそうな時を選んで、とうとう今年は登ることにした。
晴れの山頂を独り占めできて、すごく良かったよ。良い山だった、ハハハ」
(南アルプスが好きという方は
このタイプが多い気がします。笑)



男性は、
今日はなんだかしんどいと言っていた
長距離運転してきて殆ど寝ておらず
また二ヶ月ぶりの登山だから、
ゆっくり登ると言った



見晴台へ上がってみても
ただ白い空間が広がっている
でも、これから過ごす数日のことを思うと、ガッカリはしなかった
登山道から見下ろす小さな駒鳥池は
動植物の楽園に違いない
勝手な物語を想像しては楽しんだ



お花畑のなかの千枚小屋
受付を済ませて
素泊まり用の離れへ向かう
すでに青年がひとり、
百名山の本を広げ寛いでいた
荷物を置き着替えを済ませ、
建物を出て本館へ戻ってみる
Kさんらしき人物は見当たらず
悪天候で進めなかったのかも、
明日どこかですれ違えるかな



小屋に着いてなんだかんだと
一時間以上経っていたと思う
今日の寝床へ戻り
くだらない話をしていると
清水平でお会いした男性が、
倒れこむように入ってきた
大の字になり動かないが
荒い呼吸が辛そうだ
寒い寒いと言うので、
向こうの小屋はストーブがあるから、着替えて暖まってくると良いですよ、と勧めてみる
彼は少しすると突然立ち上がり
小屋の外で嘔吐を始めた
びっくりして後を追い、背中をさする
何も食べられなかったのだろう
戻るものは水か胃液のように見える
すんませんすんません、繰り返す男性
念のため、具合の悪い人がいることを
小屋番さんに伝えに行った



山を歩いていて、
本調子でない時は誰にでもあると思う
大丈夫なときもあるし、
大丈夫でなくなることもある
清水平では、にこやかに話したのにな



男性は本館で暖まって、
少し落ち着いたようだった
(彼は明日はどうするんだろう)
他人様の心配半分と
(Kさんに会えるかなあ。
荒川小屋のカレー食べないと。
天気は回復してくれるかな)
自分の楽しみ半分
冷え込んだ夜の小屋
寝袋でみのむし
ぐるぐるいろいろなことを考える



そして明け方
暗いうちにそっと小屋を出た









(つづく)

10.03.2014

まだまだ、甲斐駒ケ岳 -2014.8.3 日向八丁尾根~黒戸尾根周回




わたしは、しつこい
そのしつこさは異常
とにかくしつこい



Hiさんは困っていた
昨秋、彼は単独で黒戸尾根から
甲斐駒ケ岳へ登り
日向八丁尾根を歩いた
それを「ずるい」と言われ続け
「今年はわたしも行くんだから」
と言って、聞かない駄々っ子
「いいけどキツいぞ」
「逆回りにすれば良いよ。
黒戸のくだりは、
ほとんど登り返し無いし」



最悪、樹林帯で暗くなっても
よく知っている道のほうが良い
なにも日帰りしなくても
しかし休日が限られている我々は
泊りの山行計画は、
どうしても日数を要する時に使う



知っている
無理でないと見越せば
彼は駄目だとは言わない
そのかわり
いかなる時も絶対大丈夫は無い
「しんどくなったら、
早めに言ってくれよ」
エスケープ出来ない、水場がない
長丁場の日向八丁尾根は
それなりの覚悟が必要だ
もっとも
トレランの方々などは、
颯爽と駆け抜けていくみたいだけれど⋅⋅⋅⋅⋅⋅



尾白川渓谷を挟み
黒戸尾根の向こう側
いくつかの山を越え
鋸岳から甲斐駒ケ岳へ続く稜線に至る
今年の夏の目標のひとつ
わくわくが止まらない




*******




暗いうちに尾白川渓谷駐車場を出る
わたしは、この日向山への登りが
一番キツかった
全身をねちっこく舐める空気
噴き出す汗も手伝って、
暗い森に蒸されていく
このままでは進めない
仕方なくストックを取り出し
やっとの思いで日向山へ








ここで日の出を迎えた
日向山は1600mくらいだが
山頂のようすや、
そこからの眺めは一級品
「元気でた!」








白砂を一気に滑って
あの緑へ飛び込んで



森のなかは
想像以上に美しく静か
見上げた熊棚すら愉快だ
いつしか大岩山に差し掛かり
鎖やロープで急登を下る
この尾根全般に言えることだが
時間をかけて整備してくださった、
七丈小屋のご主人に感謝
なにもなかったら
自分達でロープを取り出さないと
とうてい下れない
刈りこみがなければ
とんでもないハイマツ漕ぎになる
とは言え
登山者で賑わうような
一般道とはやはり違う
危険な登降や
道迷いの可能性もありますので
初めて歩かれる方は十分ご注意を








目の前の甲斐駒ケ岳は
不穏な表情
鋸尾根に合流すると
パラパラ雨
どこを見ても真っ白
足もとの可憐な花たちが
色のない登山道で励みになる
岩を乗り越えながら山頂へ



「なにも見えないね。笑」
そういうこともありましょう
わたしは納得していた
美しい尾根を歩いてきたんだもの
自分の足で見たかった森を



祠に手を合わせる
並んでぶら下がるわらじが
いつ見てもかわいらしい
わたしはなぜ
あなたに執着してしまうのか
わからないけど、また来ます





「ひとやすみ」
photo by Yumiko




黒戸尾根の長いくだりを終え
尾白川にかかる橋を渡る 
身体が訴える疲労は
山を歩いてきた実感
好きな山へ登るための
好きな道がまた増えたんだ
嬉しくてたまらない
でもわたしよりも
無事に山行を終えたことで、
心から「良かった」と思ったのは
ずるいずるいと言われ続けた
Hiさんのほうだろう



思い出を積みこんで車を走らす
夕暮れを迎える夏の白州町
青く豊かな穂波が広がる
満ちた気持ちで麓の町を眺めるとき
これもまた山を登った実感