11.01.2014

南へ 2 -2014.8.28~31 二日目⋅⋅⋅⋅⋅⋅千枚、荒川、赤石を行く




雨は止んでいたが
暗く濡れた道を歩くのは、
なんとなく心細い
足下を確かめながらそろそろと進む
前にいたHiさんは
時々立ち止まり、振り返り
そそっかしいわたしが
滑って転びそうな箇所を、
より明るいヘッデンで照らしてくれた



夜と朝は、登る間に入れ替わっており
千枚岳では富士山を見た
厚い雲に押されながらも
立派に裾野を広げている
行こう、今日はここから稜線の旅









若干の風
あられがパラパラ落ちてくる
「寒いな〜⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
然りとて、先を見てみなよ
「大きい」
大きいよ、とても
「美しい」
そう、誘うような
晒された肌にゾクゾクする



悪沢岳からは甲斐駒ケ岳が見えた
すぐにわかるあの頂、愛する山
その次に注目するのは
わたしの家にいる愛ハムスター
「しおみ」
と、同じ名前の塩見岳
もちろんお気に入りの山だ
空は変わらず重くても
周囲の山々はなんとか見渡せた
中岳へ進んで前岳へ立ち寄り
「Kさん、いないなあ」
どこで会えるだろうか
お花畑を抜けて荒川小屋へ向かう








ホシガラスが飛び交っている
わたしが鳴きまねをして、
クスクス笑いながら小屋に着いた



小屋の食堂で
名物「荒川カレー」を注文する
わくわくしながら待っていると、
若い男性が我々に話しかけてきた

「ひりゅうさんですか?」
「???
はい」

なぜ名前を知っているのだろう?
もしかしてKさんかな?
でも、歳上の方のはず
様々な疑問がよぎる
Kさんとは実際にお会いしたことがなく
互いに特徴を教えあっていただけ

「これ、Kさんから預かりました」

小さなメモ
わたしとHiさんへ宛てた手紙
今朝、赤石岳から下山したことを告げている
「良い旅を!」
直筆の文字
そこに残る、微かなぬくもり
Kさんの姿を思った
ああ、会えなかったな
だからこそ胸がいっぱいになった



メッセンジャーは、
千枚小屋で働くお兄さんだった
休暇を利用して街へ下り
縦走しながら小屋へ戻る途中だった
ゆうべKさんと酒盛りをしたこと、
Kさんは天候に恵まれなかったけど
今朝は赤石岳からの眺めを楽しみ
満足して下りていったこと
わたし達の特徴を聞いて手紙を託され
でも、その格好と少し違うので
戸惑いながら声をかけてくれたこと
美味しいカレーをいただきながら
話に花が咲いた



千枚小屋のお兄さんに御礼を言い
なぜか固く握手までして、
荒川小屋を出発
心はフル
大切な手紙は、旅のおまもり



ほら、次の山も大きいよ







(つづく)