12.03.2014

南へ 3 -2014.8.28~31 大きな山を縫って 二日目⋅⋅⋅千枚岳〜悪沢岳〜赤石岳〜百聞洞山の家 三日目⋅⋅⋅聖岳〜聖平小屋




悪沢、赤石
おおらかな稜線を繋ぐ
何度立ち止まり
先を仰ぎ、振り返ったことか
心はグライダーのように
のびる尾根と深い谷を沿う


「これが山なんだ」








そこに刻まれた完璧な造形
美しいとしか言い様がなかった
目の前に理想が広がっていることが
不思議で仕方がなかった


「これが山なんだ」


他に何かを求め、与えられても
いつも孤独から抜け出せない
不安や不信の塊
そんな寂しい偏屈な人間すら
山で解き放たれる
わたしが山へ登る理由の
ひとつかもしれない



赤石岳避難小屋で一息入れた
残念ながら、
ここから青空が消えた
百間平は真っ白
降り出す前に今夜の幕営地へ



二日目はよく歩いたので
雨音に負けないくらい、
大きないびきをかいていたかも



明け方
テントから顔を出すと
暗いなかを、
ちらほらと明かりがやってくる
小屋を発ったパーティだ
「おはようございます、
早いですね」
声を掛けると
「いや〜我々は足が遅いから。
そのぶん、早く出ないとね」
数名の男女は、
すでに雨具を濡らしていた
しかし気にする様子もなく
賑やかな話し声をあげながら、
テン場の横の斜面を上がっていく
「楽しそうだな〜
ウチらも負けてられないね」
雨の中、濡れたテントを撤収し
雨の中、今日も歩くのか思うと
多少はテンションも下がる
明るいパーティに元気をもらって、
エイヤと出発の支度に取り掛かる



夜明けとともに雨脚は弱まった
結局この日は
降ったり止んだりだったと思う



天気が悪くても、良いこともある





「雷鳥さんだよ!」



兎岳から前聖岳まで
4度も雷鳥に遭遇
三家族とオス一羽
母さんと一緒の子どもたちは
だいぶ大きくなっていた
オスの雷鳥がひとり佇み
見つめていた先は
晴れていたら、
素晴らしい眺めが広がっていただろう



前聖岳にザックをデポし
奥聖岳へ向かう








ここがまた素晴らしく、
よく出来た庭園のようだった
ちょっとした岩稜も楽しい
眺望はなくとも心から感動した場所








奥聖で強くなった雨も
聖平小屋では止んでいた
テントや荷物を広げたあと
小屋でカレーを注文した
「ご飯大盛りに出来るよ、
どうする?」
そう訊かれ
「じゃあ、大盛りにします。
でも食べられるかなあ」
心配ご無用
下膳したお皿を見た小屋の男性が
「あら!ぜ〜んぶ食べちゃったね!」
厨房から一斉に笑い声
「だって、
美味しかったんだもん⋅⋅⋅⋅⋅⋅」
500円でお腹いっぱい
まかないの甘酒までご馳走になり
更には聖平小屋名物、
ウェルカムサービスの
フルーツポンチもしっかりいただく
テントに戻ると
持参のレトルトカレーまで
食べてしまった
夏に山を歩くと食欲が出ず、
「無理してでも食え」と
いつも言われていたけれど、
この山旅は至って快食
おかげでバテることなく歩き切れた



優しい聖平小屋
ここまで来られて良かった
明日は最後のひと歩き
もう、終わりなんだな




(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿